「…作品になってない。」
本年1月に兵庫県立美術館で開催された「具体」回顧展。そこで展示された初期作品群について
ある人が述べた感想である。誤解のないようにいっておくが、発言の真意は最大級の賛辞だった。
「作品」にみえるかどうかは、あくまで結果論である。万人向けの共通コードに始めから迎合するようでは、
創造的な行為とはいえない。2003年4月から翌年3月まで兵庫運河で開催された「空気美術館」も、
「作品になってない」度は抜群だった。その成立背景に、遅れてきた「具体」作家=堀尾貞治による、過剰なまでに充実した
近年の仕事があるのは間違いない。個展「あたりまえのこと 堀尾貞治展」(2002年7月、芦屋市立美術博物館)から
グループ展「未来予想図〜私の人生☆劇場〜」(2002年11月、兵庫県立美術館)を経て、その延長線上に突如出現したのが
「空気美術館」なのである。この間、展示室主体から安藤建築の特殊な屋外空間、さらに広大な水面へと、
美術の場はどんどん不定形化するとともに、堀尾自身の「個」や「我」の有り様も、極端な方向へと突き進んでいった。
その関心は、まるで「ほとけの手のひら」のように、様々な人々が去来し、表現するためのプラットフォームへと
向かっているようにみえる。「空気美術館」を、過去のアヴァンギャルドの単なるリバイバルと見誤ってはならない。
それは永遠性や唯一性を指向してきた西洋美術とは、根本的に異なる価値観に裏付けられているのだ。
21世紀の幕開けに、ある種の嗅覚をもった西欧圏のアーティストが運河の磁場に引き寄せられ、化学反応を
起こしつつあるのは、実は歴史の必然かもしれない。諸行無常…万物は変化、生滅し、永久不変はあり得ない。
この夏、一時的に復活する「空気美術館」において、
不定(Mouvement)を生きる場に、我々はもう一度立ち会うことができるだろう。

山本淳夫(やまもと・あつお/芦屋市立美術博物館)
空気美術館 in 兵庫運河
2004夏
日仏作家交流プロジェクト<Mouvement>

2004年7月11日(日)〜18日(日)
神戸市兵庫区
兵庫運河(浜山小学校山側)
◆参加作家名(アイウエオ順)
池田慎、笹埜能史、サカモトユタカ、清水公明、
椿崎和生、友井隆之、堀尾貞治、水垣尚、
森小路、ワァダダ・コウドー
アンドレアス・クレシグ、オリヴィエ・デュポン、
ハルドール・アスゲイルソン、
レオポルド・フランコヴィアック

★パフォーマンス…7/18(日)14:00〜
坂出達典、山下克彦

◎主 催:浜山地区まちづくり協議会
◎後 援:神戸市  ◎協 力:兵庫区
◎企 画:現場芸術集団「空気」
◎事務局:原口研治


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